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トラクターのエンジンがかからないとき、セルを回していい時間は決まっています。クボタの取扱説明書には、連続10秒までと書かれていました。かからなければ、30秒休んでからもう一度です。
クボタが公開している取扱説明書の、燃料の空気抜きの手順の中に記載されています(2026年8月時点)。ただし機種によって異なる場合があるため、お手元の型式の取扱説明書でもご確認ください。
もし焦って回し続けると、原因が別の場所にあってもバッテリーとセルモーターのほうを先に傷めます。つまり、回す前に確かめる場所があるということです。
農閑期が明けて、田起こしを始めようと納屋のトラクターに乗る。キーを回しても、エンジンがかからない。秋以来、一度も動かしていない。
そんな朝に開くページだと思います。
結論から言うと、最初にやることはレバーの位置を戻すことです。次に、セルの音を聞き分けること。実は、メーカー2社と農研機構が、変速レバーとPTOが中立でないとそもそも始動しないと説明しています。
この記事で分かることは、次の4つです。
- セルの音で、見る場所が2つに分かれること
- 変速レバーとPTOが中立でないと、そもそも始動しない仕組み
- 燃料を足しただけでは直らない理由と、エア抜きの手順がメーカーで違うこと
- 原因別の工賃と出張料の目安(JAが公開している料金表から)
トラクターのエンジンがかからないとき、どこから確かめる?
ここからは、いま止まっている機械を動かすための順番を見ていきます。
具体的には、セルの音、レバーとPTO、端子とヒューズ、ブースターケーブル、燃料、予熱の順です。急いでいる方は、当てはまる見出しから読んでも大丈夫です。
セルは回っているか|音で分かれる2つの道
最初に聞き分けるのは、セルが回っているかどうかです。
というのも、取扱説明書の不調時の処置表が、そこで2つに分かれているからです。三菱マヒンドラ農機のトラクター取扱説明書を見てみます。始動しないときの症状が「スタータが回らない」と「スタータは回るがかからない」に分けられていました。
まず、前者の原因は電気側です。一方、後者は燃料側に寄ります。
| セルの様子 | 考えられる原因 | 先に見る場所 |
|---|---|---|
| 無音・カチッと鳴るだけ | バッテリーの放電/端子の外れ・ゆるみ・腐食/ヒューズの溶断 | レバーとPTO・端子・ヒューズ |
| 回るが、いつもより弱い | 充電不足(ランプが暗い・ホーンが低い) | 補充電、戻らなければ交換 |
| 勢いよく回るがかからない | 燃料切れ/燃料フィルタの詰まり/エア混入 | 燃料と燃料コック・エア抜き |
出典:三菱マヒンドラ農機 トラクター取扱説明書「不調時の処置」(🟡音だけで原因は決まりません)
つまり、同じ「かからない」でも見る場所がまったく別だということです。ここを分けずに手を付けると、関係のない部品を買いに走ることになります。
音の聞き分けは、そう難しくありません。キーを始動位置まで回したとき、エンジンが重たく回る音がしていれば「セルが回っている」ほうです。反対に、カチッと鳴るだけ、あるいは無音なら「回らない」ほうにあたります。
🟡ただし、音だけで原因が決まるわけではありません。次の項目から順に確かめてください。
もちろん、回ってはいるが力がない、という中間もあります。その目安も同じ取扱説明書にありました。
具体的には、次の3つです。スタータモータの回転がいつもより弱い。アクセルの加減でヘッドランプの明るさが変わる。
そして、ホーンの音がいつもより低いこと。いずれも、補充電が必要なサインとして挙げられています。
そして、大事なのはセルを回し続けないことです。クボタの取扱説明書では、連続10秒で始動しない場合は30秒間休むよう指示されています。その操作を1〜2回くり返す、という書き方です。
要するに、10秒を超えて回し続けても、減っていくのはいちばん残しておきたい電気です。まず休ませる、と決めておくほうが安全です。
レバーとPTOが中立でないと、そもそも始動しない

セルが無反応でも、故障とは限りません。
というのも、乗用トラクターには始動安全装置が付いているからです。農研機構の農作業安全情報センターは、こう説明しています。クラッチを切り、変速レバーを中立にするなど動力の伝達が切れていないと、エンジンが始動しない安全装置が搭載されている。
理由は事故を防ぐためです。実際に、始動と同時に走行部や作業機が動くと、挟まれ、ひかれ、巻き込まれの事故につながる危険性があるとされています。
メーカーの記載も同じでした。クボタのトラクター取扱説明書を見てみます。
シャトルレバーを中立にし、あんしんPTOスイッチを切にする。そうしないと安全スイッチが作動して始動しない、と書かれています。
加えて、三菱マヒンドラ農機の取扱説明書にも同じ趣旨の記載があります。シャトルレバーとPTO変速レバーを中立にしないと始動できない仕組みだ、というものです。PTO変速レバーとは、作業機へ動力を送る軸の変速レバーのことです。
つまり、メーカー2社と公的機関の3つが同じことを説明しているということです。
実際に戻す場所は、取扱説明書の始動手順にまとまっています。クボタは、シートに座り、レバー類とPTOスイッチ、駐車ブレーキを確認してから始動するよう求めています。
キーを回す前に戻す4か所(クボタの取扱説明書より)
- 運転席に座る(地上に立ったまま始動しない)
- シャトルレバー・変速レバーを中立にする
- PTO変速レバー・あんしんPTOスイッチを切にする
- 駐車ブレーキを掛ける
※機種によってレバーの名称と位置が異なります。手元の取扱説明書をご確認ください
要するに、バッテリーがどれだけ元気でも、レバーが1本入っているだけでセルは回りません。
ちなみに、始動安全装置そのものの説明は農作業安全情報センターの始動安全装置の説明で確認できます。
バッテリー端子とヒューズ|工具なしで見える2か所
電圧を測る前に、端子とヒューズを見てください。
三菱マヒンドラ農機の処置表でも、そこが最初に来るからです。スタータが回らない原因の1つ目がバッテリーの放電、2つ目が端子の外れ・ゆるみ・腐食でした。
処置として書かれているのは、端子部を掃除して確実に締め付けること。そのうえでグリスを塗布し、防錆しておくことです。
クボタのセルフメンテナンス資料には、道具まで書かれています。ターミナル(端子)を金ブラシやサンドペーパーで磨き、グリースを塗って締め付ける、という手順です。
つまり、締まっているように見えても、腐食や汚れが挟まっていれば電気は流れにくくなります。だからメーカーは、磨いて塗るところまでを手順に書いています。
ただし、ヒューズにはやってはいけないことがあります。クボタの取扱説明書は、切れたものと同じ容量のヒューズに交換するよう求めています。交換してもすぐ切れる場合は、針金や銀紙などで代用せず購入先で点検・修理を受けること、とも書かれています。
容量を上げれば通るはずだ、という発想は通用しません。というのも、ヒューズは配線を守るために先に切れる部品だからです。太くすると、守られるものがなくなります。
ちなみに、スローブローヒューズ(大きな電流を扱う太いヒューズ)は保護する回路が分かれています。同じ取扱説明書の一覧では、スタータの回路が30A、予熱(グロー)の回路が120Aでした。
つまり、切れている場所によって症状が変わるということです。セルだけが回らないのか、予熱だけができないのか。ここまで見て動かなければ、バッテリーそのものを疑う番になります。
端子を締め直してもセルが弱いままの方は、トラクターのバッテリー上がりの原因と対処もあわせてご確認ください。
また、測った電圧をどう読めばよいかは、トラクターのバッテリーは何ボルト?本数で分かる12Vと24Vで整理しています。
工賃の時間単価や、部位ごとに公表されている金額を知りたい方は、トラクターの修理費用の相場でJA6件の料金表を並べています。
ブースターケーブルを使ってはいけない場合がある

つなぐ前に、警告ランプが点くかどうかを見てください。
三菱マヒンドラ農機の取扱説明書に、条件がはっきり書かれているからです。バッテリーが完全に放電し、スタータスイッチを入にしても充電・オイルランプが点灯しない。その状態になった場合は、バッテリーを交換するように、という記載です。
理由も添えられています。その状態で他のバッテリーからブースタケーブルを使って始動すると、高電圧が発生し、電装品を破損することがあるためです。
要するに、ランプが1つも点かないほど空のときは、つないで動かす場面ではありません。ここを知らずにつなぐと、バッテリー代で済んだはずの出費が広がります。
もちろん、つなぐ場合の手順も決まっています。クボタの取扱説明書では、マイナスケーブルの4本目に指定がありました。
つなぐ先は、バッテリーから離れたエンジン本体または車体です。バッテリーから発生する可燃ガスに引火するおそれがあるためです。
実際に、三菱マヒンドラ農機の取扱説明書も同じ位置を示していました。4本目は機械のエンジンの取付ボルトに接続する、という書き方です。取り外しは、つないだときと逆の順序になります。
加えて、救援車は必ず12Vバッテリー車を使うよう書かれています。プラスとマイナスを逆に接続すると、トラクターや救援車の電子機器類が破損するとも記載されていました。
ところで、JAF(日本自動車連盟)のロードサービスは大型特殊自動車および小型特殊自動車を対象外としています。トラクターはここに含まれます。つまり、自動車と同じ感覚で呼んでも来てもらえません。
そのため、頼む先はJAの農機センターか農機販売店になります。
つないでかかったあと、どれくらい動かせば足りるのか。気になる方は、トラクターのバッテリー充電時間の目安もあわせてご確認ください。
燃料を足しただけでは、エンジンはかからない

燃料切れのあとは、給油だけでは足りません。エア抜きが要ります。
というのも、燃料が空になると通り道に空気が入るからです。ディーゼルエンジンは燃料を高い圧力で押し出す仕組みのため、空気が混ざると燃料が届きにくくなります。
燃料系統に空気が入る4つの場面(クボタの取扱説明書より)
- セパレータの排水や分解洗浄をしたとき
- 燃料フィルタや配管を取り外したとき
- 燃料切れが起きたとき
- トラクターを長時間使用しなかったとき
※長期間動かしていない機械も対象に入っています
さらに、三菱マヒンドラ農機の取扱説明書には踏み込んだ記載があります。エア抜きをせずに始動すると、少量の空気混入なら始動できることがある。しかし、負荷をかけた際に馬力が低下したり、エンジンが停止する、というものです。
つまり、かかったから大丈夫とは限りません。畑に入ってから止まるほうが、はるかに厄介です。
手順がメーカーで違う、というのはこういうことです。3社の取扱説明書を並べてみます。
| メーカー | エア抜き手順の要点 |
|---|---|
| クボタ | 予熱用コネクタを外し、キースイッチ[入]30秒・[切]15秒を10回程度 |
| 三菱マヒンドラ農機 | 空なら10L以上給油し、フィルタ上部のポンプを重くなるまで約50回押す |
| 井関農機 | レバーをAIRにし、気泡が出なくなったらONに戻す |
いずれも各社の取扱説明書・セルフチェック資料より(🟡同じメーカーでも型式で異なります)
🟡クボタの手順にある「キースイッチ[入]」は電源を入れる位置のことで、セルを回す操作ではありません。冒頭の「セルは連続10秒まで」とは別の操作です。
ただし、燃料が入っているのにかからない場合はフィルタの詰まりも疑うところです。クボタの純正部品ページでは、燃料フィルタが水やゴミを取り除いてエンジンを保護するとされています。交換の目安は400時間です。
実際に、井関農機のイージーセルフチェックBOOK(トラクタ編)も400時間交換で、100時間ごとの清掃を求めていました。
加えて、クボタのセルフメンテナンス資料には交換しないとどうなるかも書かれています。エンジンの始動性が悪くなる、出力が低下する、各部の破損につながる。「かからない」は、その入り口です。
冬だけかからないときに疑う、予熱と軽油
予熱は、秒数ではなくランプで判断してください。
いまのトラクターは、冷却水温に応じて予熱の時間を自動で決めているからです。クボタの取扱説明書には、キースイッチを入にすると予熱ランプが点灯し、完了すると自動的に消灯すると書かれています。
そのうえで、寒冷時はランプが消えたことを確認してからセルモータを回す、と指示されています。
つまり、長く待てばよいという話ではありません。ランプが消えた時点が、その日の気温に合わせた完了の合図です。
反対に、ランプがいつまでも消えない、あるいはまったく点かない場合もあります。そのときは、予熱の回路そのものを疑うことになります。
もう1つ、冬に効いてくるのが軽油です。軽油は冷えると溶けていたワックス分が固まり始め、燃料フィルタを詰まらせます。この温度は目詰まり点と呼ばれ、JIS規格の号数ごとに決められています。
そのため、夏期は1号または特1号、冬期は2号、寒冷地は3号や特3号と使い分けるようになっています。
| 軽油の号数 | 目詰まり点 | 主な使用時期 |
|---|---|---|
| 1号 | −1℃以下 | 夏期 |
| 2号 | −5℃以下 | 冬期 |
| 3号 | −12℃以下 | 寒冷地 |
| 特3号 | −19℃以下 | 寒冷地の厳寒期 |
出典:JIS K 2204(ENEOS 石油便覧)
要するに、秋の軽油をタンクに残したまま冬を越すと、気温のほうが先に下がることがあります。🟡流通している号数は地域と時期で異なります。給油先にご確認ください。
気温そのものも効いてきます。井関農機のセルフチェックBOOKは、気温が低下するとバッテリーの性能も低下するとしています。そのうえで、冬期は特に管理に注意するよう求めています。
ちなみに、かかった後の扱いも冬は変わります。クボタの取扱説明書には、気温別の暖機運転時間が示されていました。10〜0℃で0〜10分、0〜−10℃で10〜20分です。
トラクターのエンジンがかからないとき、修理費はいくらかかる?
ここからは、お金の話です。
自分で確かめても動かないとき、JA(農協)や農機販売店に頼むといくらかかるのか。そして、どこまでを自分でやり、どこからを任せるのか。公開されている料金表と取扱説明書から並べていきます。
JAの料金表で見る、原因別の工賃と出張料

原因が分かると、かかるお金の桁がだいたい見えます。
というのも、JAの農機センターが作業ごとの標準時間と工賃を公開しているからです。JAハイナン農機センターの農機修理標準技術料金表を見てみます。多気筒ディーゼルエンジン(30馬力クラス以下)の項目が並んでいました。
| 作業 | 標準時間 | 工賃 |
|---|---|---|
| エアー抜き | 0.3時間 | 1,980円 |
| バッテリー交換/充電 | 0.3時間 | 1,980円 |
| スターター仕組交換 | 0.5時間 | 3,300円 |
| グロープラグ交換(1気筒) | 0.5時間 | 3,300円 |
| エンジン脱着 | 9.3時間 | 61,380円 |
出典:JAハイナン農機センター 農機修理標準技術料金表(税込・🟡工賃のみで部品代は別途・地域で異なります)
🟡ここで大事なのは、これが工賃だけの金額だという点です。同じ料金表に、部品代や加工代は含んでいないと明記されています。実際に、JA伊勢の料金表にも交換部品・オイル・塗料の費用は含まれないと書かれていました。
時間当たりの技術料は6,600円です。JA伊勢の令和7年4月の料金表でも、修理・整備料金は作業員1人1時間当たり6,600円でした。つまり、2件で一致しています(🟡JAグループ佐賀では県内平均5,000円とされ、地域によって異なります)。
出張料は、JAハイナンが一律1,650円、JA伊勢が2,200円です。時間外の扱いも決まっています。JAハイナンは午後6時以降にかかる場合は30%割増、JA伊勢は休日および就業時間外が1時間当たり8,250円です。
また、持ち込みか来てもらうかでも変わります。JA伊勢では、引き上げ修理の引取納品料金も決まっていました。軽トラックで3,300円、普通トラックやキャリアカーで6,600円からです。
反対に、エンジンそのものに手を入れる作業は桁が変わります。同じ料金表で、エンジン脱着は9.3時間で61,380円です。ここも工賃だけなので、部品代は別に乗ります。
要するに、レバーや端子の空振りなら出張料だけ。燃料系なら数千円の工賃。エンジン内部まで進むと数万円から、という並びになります。
🟡いずれも一般的な目安です。機種・年式・状態・地域・依頼先によって変わります。
工賃の外側、つまり部品代のほうが気になる方は、トラクターのバッテリー交換費用の目安もあわせてご確認ください。
暗証番号やセキュリティで止まっているとき
始動しない原因が、盗難防止の機能であることもあります。
機種によっては、エンジン始動セキュリティ機能が付いているためです。クボタの取扱説明書では、あらかじめ設定した暗証番号を入力しないとエンジンが始動しないシステムだと説明されています。
もちろん、この機能は入と切を切り替えられます。ただし、液晶の表示部に暗証番号の入力画面が出ているなら、働いている状態です。
注意したいのは、間違え続けたときです。連続して10回誤入力すると、入力そのものが拒否され、エンジンを始動することができなくなります。
そのため、この状態になった場合や暗証番号を忘れた場合は、購入先に連絡するよう案内されています。
ちなみに、解除したあとの扱いも決まっています。キースイッチを切にしても10分間は、入力なしで再始動ができます。
ただし、バッテリーを取り外した場合は10分以内でも入力が必要です。実は、バッテリーを外して充電したあとにかからない、という場面はここが理由のことがあります。
要するに、思い当たる節があるなら、部品を疑う前に画面を見る、という順番です。🟡この機能の有無と操作方法は、機種によって異なります。
直結という近道を、メーカーが禁止している理由

スタータ端子の直結は、やってはいけません。
クボタの取扱説明書に、はっきり書かれているからです。地上に立ってエンジンを始動したり、スタータ端子や安全スイッチを直結して始動しないこと。理由は、トラクターが突然動き出すおそれがあるためです。
実際に、農研機構の説明とも重なります。始動時に走行部や作業機が作動してしまうと、挟まれ、ひかれ、巻き込まれなどの事故につながる危険性がある、とされています。
つまり、直結は安全装置を外して始動する行為そのものです。しかも、動き出した機械の外側に立っている状態で起きます。
そのため、この記事では直結の手順を書きません。代わりの順番は、ここまでに書いたとおりです。直結という操作が何をしているのか、なぜ危ないのかを詳しく知りたい方は、トラクターのセルモーター直結方法の前に見たい4か所で整理しています。
まず、レバーを戻す。次に、端子を磨く。そして、ヒューズを見る。
さらに、燃料とコックを確かめ、予熱ランプを待つ。この5か所を見て動かなければ、農機販売店かJAに相談してください。
もう1つ、見落とされやすい注意があります。クボタの取扱説明書は、室内やビニールハウス内で運転する場合は換気を十分に行うよう求めています。換気が不十分だと、一酸化炭素中毒になるおそれがあるためです。
加えて、セルフメンテナンス資料にも同じ案内がありました。納屋の中で何度も試す場面は、まさにこれにあたります。
自分でやる範囲と、農機店に任せる範囲
線引きは、機械の世代で変わります。
コモンレール(燃料を高い圧力でためてから噴射する仕組み)を積んだ機械では、さわってよい範囲が狭くなるからです。井関農機のセルフチェックBOOKには、高圧力の燃料が通る部品は分解や修理を行わないことが明記されています。周辺のボルト・ナット類もゆるめない、とも書かれていました。
ちなみに、高い圧力がかかるのは高圧ポンプからインジェクタまでの間です。守らないと、高圧燃料のもれによる傷害事故を引き起こすおそれがある、とされています。
さらに、同じ冊子にはフィルタ交換等は購入先での交換を強く勧める、という記載もあります。つまり、旧い機械なら自分でやれた作業が、新しい機械では勧められないことがあるということです。
加えて、電気部品や配線にさわる手順もあります。メインスイッチを停止にし、3分程度たってからマイナスコードを外す、というものです。
ここまでを踏まえると、線引きはこう整理できます。
| 自分で確かめられる | 農機販売店・JAに任せる |
|---|---|
| レバーとPTOの位置 | 噴射ポンプ・インジェクタ |
| 端子の掃除と締め付け | スターターの内部 |
| ヒューズの目視と同容量交換 | 圧縮・エンジン内部 |
| 燃料の量・コック・水抜き | コモンレールの高圧側 |
そして、いちばん確実なのは自分の機械の取扱説明書を見ることです。ここまで見てきたとおり、エア抜きの手順もレバーの名称もヒューズの容量も、機種によって違います。
もし手元に取扱説明書が見当たらないなら、クボタの取扱説明書検索で型式から探せます。他のメーカーも同じように公開しているので、まず型式を控えるところから始めてみてください。
ここまでの費用を並べると、修理するかどうかを決める材料がそろいます。工賃、部品代、出張料、引き上げが必要かどうか。合計が機械そのものの価値に近づいてくるようなら、直して使い続けるほかに、手放すという選択肢も出てきます。その場合に何を数えておけばよいかは、納屋に眠る動かないトラクターの買取、捨てる前の5つの数字で整理しています。
決める前に、修理の見積もりを複数の依頼先から取っておくと、金額の幅が見えます。農機具のお金で損しないための5つの原則の原則2も、同じ考え方です。
来年の春、一発でかけるための保管のしかた

春にかからない原因の多くは、秋のしまい方で決まります。
長期格納の手順が、取扱説明書に用意されているからです。クボタの取扱説明書は、格納中のバッテリーは1ヵ月に1回、充電器で完全充電するよう求めています。
同じ取扱説明書には、長期格納の前にエンジンオイルを交換して防錆運転をするようにも書かれています。その費用の内訳はトラクターのオイル交換費用もあわせてご確認ください。
また、井関農機のセルフチェックBOOKでは、補充電の目安が夏期1か月ごと・冬期2か月ごとでした。
ただし、ここは出典によって幅があります。バッテリーメーカーのGSユアサは、補充電の目安を夏季3か月に1度・冬季6か月に1度としています。
つまり、農機メーカーの取扱説明書のほうが短い間隔です。🟡どちらが正しいというより、機械側の指示のほうが厳しめだと理解しておくと安全です。
燃料についての記載もあります。クボタの取扱説明書は、格納時に燃料を満タンにするよう指示しています。というのも、空にしておくと水滴ができ、燃料系統故障の原因になるためです。
さらに、取り付けたまま保管するときは必ずアース側(マイナス側)を外す、とされています。配線や燃料配管のキレツ、被覆の破れも点検の対象です。
ファンベルトも、冬前に見ておきたい場所です。井関農機のセルフチェックBOOKは、ベルトの張りがゆるいとオーバーヒートや充電不足の原因になるとしています。
ただし、たわみの基準はクボタが7mm程度、井関農機が5〜10mmと機種で異なります。手元の取扱説明書の数値をお使いください。
農閑期に自分で補充電をするなら充電器選びで迷う、という方は、農機具のバッテリー充電器の選び方もあわせてご確認ください。
よくある質問(FAQ)
エンジンはかかったのに、黒い煙が出ます
まず、エアクリーナーの詰まりを疑ってください。三菱マヒンドラ農機の取扱説明書では、排気色が黒すぎる原因としてエアクリーナの詰まりと燃料が悪いことが挙げられています。エレメントの清掃は、クボタ・井関農機ともに100時間ごとが目安です。改善しないときは農機販売店にご相談ください。
バッテリーを外すのは、プラスとマイナスのどちらからですか
外すときはマイナス(−)側から、取り付けるときはプラス(+)側からです。三菱マヒンドラ農機・クボタ・井関農機の3社の資料が、いずれも同じ順番を示しています。順序を誤ると工具が車体に触れてショートし、火花が飛ぶおそれがあります。
バッテリーは機械に付けたまま充電してもいいですか
取り付けたままの充電は避けてください。三菱マヒンドラ農機の取扱説明書は、引火爆発や機械損傷の原因になるおそれがあるとしています。井関農機のセルフチェックBOOKも、必ず車体から取り外して充電するよう求めています。充電は風通しのよい場所で行ってください。
チャージランプが点いたままですが、関係ありますか
充電系統の異常を知らせるランプです。三菱マヒンドラ農機の取扱説明書によると、エンジン運転中に点灯する原因はファンベルトのゆるみや破損とされています。停止中に点灯し、始動すると消えるのが正常です。放置すると充電されず、次に止まったときにかからなくなります。
【まとめ】トラクターのエンジンがかからないときの要点
ここまで、トラクターのエンジンがかからないときに確かめる場所と、頼んだ場合の工賃の目安を見てきました。
いちばん伝えたいのは、故障と決めつける前に確かめる場所がある、ということです。実際に、メーカー2社と農研機構が説明しているとおり、変速レバーとPTOが中立でなければトラクターは始動しません。
- セルが回るか回らないかで、見る場所が2つに分かれる(メーカーの処置表が同じ分け方)
- セルは連続10秒まで。かからなければ30秒休む(クボタの取扱説明書)
- 燃料切れ・長期不使用のあとはエア抜きが必要。手順はメーカーで異なる
- 警告ランプが1つも点かない完全放電では、ブースターケーブルをつながない
- 工賃の目安はエア抜き1,980円・スターター仕組交換3,300円・出張料1,650〜2,200円(工賃のみ・部品代別途)
金額はいずれも、JAが公開している料金表にもとづく一般的な目安です。機種・年式・稼働時間・状態・地域・依頼先によって変わります。
また、手順や規定値も機種ごとに違います。作業する前には手元の取扱説明書をご確認ください。判断に迷う場合は、メーカー・JA・農機販売店にご相談いただくのが確実です。
まずは、レバーの位置から。そこから順番に見ていけば、呼ぶべきかどうかも、いくらかかりそうかも、自分で見当がつけられるようになります。